情報通信技術活用の職責を実務にどう落とし込むか — AI に「手」を渡すときの守り方

2026年10月7日 (更新: 2026年10月11日) | 今村 文宣(行政書士)

情報通信技術活用の職責を実務にどう落とし込むか — AI に「手」を渡すときの守り方

情報通信技術の活用などを通じて、国民の利便の向上と業務の改善進歩を図るよう努めることは、行政書士の職責です。そして、業務で知った秘密を守ることは行政書士の義務で、個人情報を守ることも求められます。AI に直接作業を任せるほど、この2つを両立させる仕組みが欠かせなくなります。

本記事は、「デジタル業務とは何か」で予告したシリーズの3本目です。2本目では、AI を使うときは判断を人が持つことをお伝えしました。今回は、AI に直接作業を任せるときに、何をどう守るかをお伝えします。

AI に「手」を渡した日

それまで、会話で使っていた AI は、手元のファイルに直接さわれませんでした。ファイルを見てほしいと頼んでも、返ってくるのは「直接アクセス不可」という答えです。作業の受け渡しは、すべて人の手を通っていました。

そこで、MCP(AI が外の道具やファイルを使うための共通の仕組み)を使って、AI が手元のファイルを扱えるようにつなぎました。ついさっきまで「できない」と答えていた AI が、再度試してみると…。

上: AI は「直接アクセス不可」と答えていた。下: つないだ後、AI は「待って」と言い、「これでゲームチェンジ」と続けた

自分にできるようになったことに、AI 自身が驚いた、めったにない瞬間です。作った側にとっても、忘れられない一日になりました。

AI に「手」を渡したこの日から、作業の速さは一気に変わりました。同時に、AI が直接さわれる以上、何をさわらせるかを決めることが、人の大切な仕事になりました。

活用も、守ることも職責

「デジタル業務とは何か」で紹介したとおり、行政書士法は、情報通信技術の活用などを通じて、国民の利便の向上と業務の改善進歩を図るよう努めることを、行政書士の職責としています。同じ法律は、業務で知った秘密を守ることも求めています。

行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。

行政書士法第12条

預かった情報を守る責任は、行政書士に限りません。仕事で人の情報を預かる以上、守秘の約束や個人情報保護法など、守るべき決まりがあります。情報通信技術を活かすことと、預かった情報を守ること。AI を使う時代には、どの仕事でも、この2つを同時に満たす仕組みが要ります。

AI がさわれる範囲は、人が決める

つながった AI が最初にしたのは、自分に許された場所を確かめることでした。AI が使ってよい場所と操作は、最初に人が決めます。

人が使ってよい場所を決め、AI はその中の書類・記事・設定だけを直接読み書きする。個人の記録や鍵には届かない

書類や記事の下書きのように任せてよいものと、個人の記録や鍵のように AI に渡さないものを、分けておきます。AI はとても有能なので、渡せば渡しただけ使います。だからこそ、渡さないものを先に決めておくことが大切です。

図の「鍵」もその一つです。パスワードのような鍵は、記録や設定と分けて保管します。外からサーバーに入れる入口も必要なものだけに絞り、使わなくなったら閉じます。

個人情報は、外に出す前に置き換える

外部の AI サービスは便利ですが、文章を送れば、その中身は事務所の外に出ます。そこで、送る前に名前や番号を記号に置き換え、返ってきた答えを手元で元に戻す仕組みが作れます。

手元のサーバーで名前と番号を記号に置き換えてから外部の AI サービスに送り、返ってきた答えを手元で元に戻す流れの見本(架空のデータ)

外部の AI に届くのは名前や番号を記号にした文で、元に戻す対応表は手元にしかありません。当事務所も、こうした仕組みを自ら作って動かしています。実際の仕組みに作り物の文章を通すと、次のようになります。

実際の仕組みに作り物の文章を通した結果。名前・電話番号・会社名が記号に置き換わり、外部の AI の答えを手元で元に戻している。送る文に元の名前・番号が残っていないことも点検している

ただし、置き換えが完全だと言えるものではありません。文章の書き方によっては、記号にしても誰のことか分かってしまう場合もあります。外に出してよいかの判断は、人が担います。

実装のポイント

情報通信技術の活用と、秘密と個人情報を守ることを両立させるために、当事務所の経験からお伝えしたいことは次の3つです。

  • 渡さないものを先に決める: AI が使ってよい場所と、渡さないものを、作業の前に人が決めます
  • 外に出す前に置き換える: 外部の AI サービスに送る前に、名前や番号を記号に置き換えます。何を出してよいかは人が判断します
  • 鍵と入口を手入れする: 鍵は記録や設定と分け、入口は必要なものだけに絞ります

次の記事では、こうした仕組みをまとめていく当事務所のアプリ「Daegis」の構想をお伝えしています。

当事務所のサポート

当事務所は、自ら作って動かしてきた経験をもとに、事務所や企業の AI 活用を、守る仕組みとあわせて支援いたします。

  • 任せる範囲の設計: AI に任せてよい作業と、渡さない情報の分け方を一緒に整理いたします
  • 個人情報を守る仕組みの設計: 外部の AI サービスに渡す前の置き換えなど、作れる仕組みをご提案いたします
  • 鍵と入口の見直し: 鍵の保管と、外から入れる入口の絞り方を見直します

デジタル業務に関するご相談は、お問い合わせフォームよりお気軽にお寄せください。


本記事は、行政書士法第1条の2第2項の趣旨に基づく取組の一環として公開しています。

本記事は2026年10月11日時点の法令・公表情報に基づいています。改正や運用の変更があるため、申請の際は最新の情報をご確認ください。

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